○第2回(2017.12.15.FRI.UP)
参 苗はどうやって育てますか?
ひ 岩澤先生のやってるのは「低温育苗」っていう方法。温度管理をするんで、本来は、ハウスがあったほうが良いけど、うちの場合はないから、トンネルハウスで。
参 トンネルハウスってでっかいアーチにビニールはって、平らにして。
武 そうですね。
ひ 本来、岩澤先生のマニュアルは、農家さんがやるやり方で、これを完璧にやるときは、ハウスがないと、温度管理が細かくできなくなってしまうので、だったらまあ、トンネルハウスならトンネルハウスでできる範囲で出来れば良いと思ってる。
武 詳しくはね、『不耕起でよみがえる』を読んだほうが。あれ、マニュアルそのまんまだから。
ひ 『不耕起でよみがえる』って本が出てて、マニュアルでね、書いてあるんですよ。育苗のことも。
武 だから別に、自然耕塾行かなくても、できる人だったらできる。
ひ ある程度、農家さんとかだったらできるかもしれないけど。お米づくりをしたことない方でいきなりはね、加減がね、分かんないとは思う。
参 初めてやろうと思ったら、さきほど言ってた、5.5葉の苗を買ってきたほうがいいですね。
武 そうですね。
ひ いきなり全て自分で作った苗で完璧にやるっていうよりは、まずは田んぼやりなから、少しずつ、やっていってうまくできるように自信がついたら、全部自分の苗でやっていけばいいと思う。けっこう、つきっきりになるもんね。
武 そうそうそう。
ひ 2ヶ月間、長い期間をかけて育苗するから。サラリーマンの人たちはちょっと難しいかもね。温度管理とか、水やりとか。
武 そうだね。
ーー 年間のスケジュール
参 1年のスケジュールっていうのはだいたいどんな?いつ頃なにをやってんのかなっていうのを全体で知りたかったんですね。
武 まず、1月から、冬に水をはるための準備が始まるんですよ。
参 なるほど。1月に、水張りの準備。
武 そうですね。黒塗りしたりとか。で、2月末までに田んぼの水を張り終える。というのが理想ですね。で、3月から4月が育苗期間。
参 はい。
武 で、5月の連休あけてぐらいから田植え。中干しは基本しないです。
参 あ、中干ししないんですね。へー。
武 やらないですね。
ひ 肥料入れないから必要ないのかな?
武 そうだね。ただ、はじめて借りた時に肥料が多い田んぼだったら水を抜く場合もありますけどね。稲を見ればわかる。色がめっちゃ濃いんですよ。そういう場合は、倒れるのもすぐわかるから、そこで水を抜いて根を張らせる。7月の頭から、一週間ぐらい水を抜いて。表面に多少ヒビが入るくらい。がっつりヒビが入っちゃったら、水がなかなか、貯まらないんですよ。
参 ヒビが入っちゃうからですか?
武 そうそうそう。で、8月の1日から水を抜くんです。8月終わりから台風シーズンなんで、もうぐずぐずの田んぼで稲刈りすることになっちゃうから。田んぼに水が貯まらない段取りで、溝を掘る。棚田の場合は、ちゃんと、下の田んぼへ流れるように。9月の10日前後から稲刈り。
で、10月に、稲刈り終わったらすぐ、いったん、草刈機で田んぼを全部刈る。水がない分、雑草が出てきますからね。二番穂とかも全部刈っちゃう。12月までは、二番穂を刈ってもまた穂が出てくるんで、生長を見ながらもう一回刈る。これも田んぼの中に肥料分どのくらいあるかって目安になります。それで年内は終わりですね。
参 なるほど。
ーー 籾摺りについて
武 うちは鴨川の精米所まで行ってやってもらってる。80歳のじい様がいて、めちゃくちゃ籾摺りのやり方がうまいんですよ。
参 へー。
ひ 最近なくなってきたみたいですね、籾摺りやるところ。
武 館山に一軒あるけど、玄米にした時、籾が多い。あと、ライスセンターに持っていっちゃうと自分のお米じゃなくなってくる可能性があるんですよ。
参 ライスセンターに行った後ろ姿を見て、ある日、袋に入ってくるじゃないですか。ほんとにこれ、うちでとれた米なのかなっていうのはやっぱり思いますよね。
武 これがね、あのね、これから行く岩井は分かります?
参 はい。だいたい分かります。
武 岩井のお米と三芳のお米、もう、全然味が違うんですよ。
参 あーそうなんですか。
武 みんなライスセンター持っていくんですけど、わざと、岩井の人は三芳の人たちがいる時に狙って、三芳のお米が帰ってくるように。笑
参 粘土質だからいいお米なわけですね。
武 そうそうそう。みんな分かってる。
参 岩井はじゃあ砂地ってことですか?
武 そう。
ひ 自分でつくったお米のこだわりはないんだね。
武 自分の土地はこだわりあるけど、自分の土地でとれたお米ってのは、そんなにないと思う。
参 そんなこともあるんですね。
武 去年、うちの地主さんにお米渡した時、初めて自分の家のお米食べたって。笑
息子さんにもお渡ししたんですけど、初めてだねとかって。
参 鴨川の精米所にわざわざ持ってくっていうのは、そんなに違うものなんですか?
武 やり方だよね、何でもそうなんですけど、そこの精米所は全然ちがいますね。
参 そのかわり高かったりするんですか?
武 いや。ライスセンターがいくらかは分かんないですけど、一俵1000円、60キロ1000円で。融通がきくんですよ。くず米とかも、自分で食べる分だからちょっと多めに入れていいですとか、お客さんに渡すから混ぜないようにしてくださいとかって言うとやってくれる。もみもほとんど入らない。すごい丁寧なんですよね。
参 なるほど。
武 研究熱心な人で、使ってるのは今のふつうの籾摺り機なんですよ。市販で売ってるのと同じ。それをずっと研究してやってる。僕とも相性あうし。で、いつも採点してくれる。笑
参 あーそうですか。
武 僕だけじゃなくて色んな人のお米をやってるから。
参 いろんなのを見てるんですね。
武 そうそうそう。
ーー 藻について
参 今年、身をもって体験したんですけど、藻がすごい出るんですよね。多分、栄養があるから出るのかなとかいろいろ考えるんですけど、どうしてるのかなって。
武 藻はあったほうがいいんで。あったほうが生き物の隠れにもなるし、冬の寒い時は保温できるし、暑い時はそれなりに抑えてくれるし、何しろ、水の中に空気を作ってくれるから。
ひ 生き物が住める環境を作ってくれる。
武 でも田植えの時にあるとすごい邪魔になるから、一回とったりはしますけど。そもそも藻がなぜ出たかっていうのは明らかで。肥料があって、冷たい水が入って、流れてない。そうすっと、藻が出てきます。
参 まさに全部そろってます。笑
武・ひ 笑
参 井戸から出る水、すぐ出てすぐ入りますから。
武 あったかくなってくるころにはまた、最初サヤミドロで、次にアオミドロってのが出てくるから。アオミドロはもう肥料があるときバンバン出てくる。
参 見た目が悪くて、それが風に流されるとなにしろちっちゃな苗なので、みんな倒れちゃうんですよね。
武 稚苗ってさ、弱々しいから。
参 藻が流れてくと、ハケではいたみたいに倒れちゃう。
武 その場合は、水を張らなきゃいいですね。
参 そういうことですよね。
武 水を張らなければ、藻が発生しないんですよ。田植え1週間くらいは、水を張らなければ、藻が下に沈む。おっきくなった時に藻が出てきてもそんなに倒れないんじゃないかな。
ひ 苗が成苗であれば。
武 稚苗でも、もうちょっと待って植えてあげると、3.5、4.5葉になってくるから。肥料あげて、田植え機にあった大きさまで、ギリ、機械が掴める大きさまで待ってから植えれば。
参 そういう機械の事情がまったく誰もわからないので、カミさんのお母さんが「うちは後回しでいいから、大きな苗を植えてくれ」って今年言ったんだそうですね。だから一番周りの田んぼの中では最後の方に植えてるんですけど、それでもちっちゃいですからね。
ひ 田植え機があるんですか?
参 委託で頼んでる。
武 こういう時、そもそもの、耕起・不耕起関係なく、苗が悪いから。苗さえしっかりしてればね。
参 わかりました。こんなに質問しちゃっていいんですか?
武・ひ 全然全然。
参 時間大丈夫ですか?
ひ うちは大丈夫です。逆に大丈夫ですか?
参 僕はもう全然、もう満を持して。笑
ーー 耕耘と固い土について
武 不耕起について、みんな勘違いしてるのが、耕運機を入れないから不耕起栽培です、
っていうわけではないんですよ。固い田んぼの土に丈夫な苗を植えてあげるから、ストレスがかかって根が太くなる、それで立派な稲ができるわけで。『固い土の中に丈夫な苗を植える』これは岩澤先生がしょっちゅう言ってた。
参 なるほど。
武 なので固い土を作るのは大前提。
参 はい。
武 それと、水の持ちはまた別の話なんですよ。水持ち、かなり悪くなるから、固い土にすると。
参 確かにそうですね。
武 そうすると、水もちゃんと出る環境の田んぼじゃなきゃいけませんよ、ということになる。3日にいっぺんぐらい水がちゃんと入れられるんだったら、たぶん大丈夫だけど、一週間に一回とかだったら、たぶん耕したほうがいいですね。
参 なるほど。分かりました。じゃあ耕運機は持ってないんですか?
武 持ってないです。
参 へー。ふつうの田んぼを、じゃあ今年からやるぞってなって、今おっしゃってる固くしようとした時ってどうすればいいんですかね。何もしない?
武 僕は3年かけて田んぼを作っていくんで。1年目はまず観察で何もしないんですよ。ある程度は平らにするんですけど、水路(みずみち)とか何から何までとにかく観察したいんですよ。
参 田植えもしない?
武 あ、しますします。全部ひととおりやるけど、どこが水たまりやすいとか、どこが雑草出やすいとか、雑草の種類も全部ちがってるんで1年目っちゅうのは。で、その次にしっかりと、8月に溝を掘る。
参 水抜き。
武 ここからもう次年度の田んぼの作業です。
参 なるほど。
武 8月から一ヶ月~半月くらいかな、台風来ちゃうと思うんで。田んぼがぐずぐずになってくるから、固い土を一回作ってあげる。そうすれば台風が来ても10月になったら、また固く戻ってるから。これをいつまでもぐずぐずぐずぐずになってて、いざ、1月から、準備するぞっていったって、ぬかるんでるんですよ。そうすっと雑草が出てくる。
ひ 固い土を作るために、8月に水を抜く。
武 8月から12月まで。ここが岩澤先生の場合だとちがうんですよ。
ひ 岩澤先生の場合はさ、そもそも棚田で作ってないわけじゃん。基盤整備されてる、機械で作ってた田んぼを切り替えるやり方。その岩澤先生のマニュアルと違って、棚田はやっぱり、水がすごくたまりやすいってことでしょう。
武 山をしょってると。
ひ 山から水がつねにわいてくる。
参 あーなるほど。
武 基盤整備やってるとこはね、いつでも、固くできるんですよ。暗渠(あんきょ)があれば。
参 それは本で読んで、あ、そんなことしてるんだ、ってのは初めて知りましたね。
武 暗渠があるところはもう、3ヶ月もあれば固くなるから、だって絶対たまらないですからね。ちょこっと山しょってるんであれば、ちょこっと溝をほっとけば、山から来る水は入らなくなる。暗渠あけとけば、十分固くなる。それと、うちみたいな棚田とはまた別の話。
ひ そこをやっぱり、マニュアルにはないんだけど、絶対やっとかないと、ぐずぐずのままがずっと続いちゃう。
武 そう。岩澤先生のマニュアルにのれない。
ひ のるために、それをやっときましょう。